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秋季キャンプコラム

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2023.11.14
アピールは、いらん!
11月10日(金)~11月13日(月)

これ以上ない最高の結果に終わった今季だが、喜びに浸るのも程々に早くも次のシーズンへ向けて始動した岡田阪神。秋季キャンプ、侍ジャパン合宿などの動向を追った。

『トリプルスリー』への船出

10日(金)熊本市内の東海大熊本星翔高校でドラフト4位・百﨑蒼生(ももざき・あおい)内野手が指名挨拶を受けた。

ドラフト指名の際は、堪えきれずに嬉し涙を流した百﨑。幼少の頃に父を亡くし、母が一人で支える野球道だった。神奈川県の東海大相模高に入学するも、名門校の空気に馴染めず1年で出身地にある系列校へ転校した。ラストチャンスだった高3夏に甲子園出場を果たし、活躍する事で自らの道を開く。紆余曲折の末に掴んだプロへの切符に感慨も一入だ。

「どこで勝負して行きたいか?と訊かれた。とりあえずショート一本で勝負したい。日本シリーズで日本一になったし、そのチームに飛び込んでいけるという事で楽しみな気持ちが多くある。少しでも早く一軍の舞台で自分のプレーを応援してくれている人たちに見せることが一番!」

ファンには『モモちゃん』と呼ばれたいという百﨑。攻走守3拍子揃う逸材と高く評価されており、3位の山田脩也内野手(仙台育英高)と共に将来チームの中核を担うべき存在だ。狙うは、3割30盗塁30本塁打を意味する『トリプルスリー』。母校は国民的人気アニメ『ワンピース』の作者・尾田栄一郎さんを輩出している。主人公の台詞「海賊王にオレはなる!」に重ねて、モモちゃんも野球界の王者を目指して船出する。

甲子園の球団施設では、今季まで新人発掘に専心していた渡辺亮アマスカウトのファーム投手コーチ就任記者会見が行われた。「本当に自分で良いのかな?…急な話だったので、只々びっくりした」。コーチ就任に最初は若干の戸惑いを見せる。

だが、内に秘めた情熱は誰にも負けないものがある。「(現役時代は)JFKという3人がいて、ちょっと別格だったけど、今の選手もそれに劣らないぐらいの能力はあるので、まだまだ今後の伸びしろを含めて楽しみな選手が多いかな、と思う」。

入団から6年連続46試合以上登板するなど実働9年で通算362試合登板。細い身体で長きに渡り猛虎のプルペンを支えた中継ぎ右腕は、ユニフォームを脱いでからも在野の逸材を発掘し続けて来た。スカウトとして数多の才能を見出した眼力が、若虎育成の現場で生きて来るのは間違いないだろう。

リストを鍛えろ

10日(金)守備の名手に贈られる今年度の三井ゴールデン・グラブ賞が発表され、阪神勢は史上最多5人の選出となった。

セ・リーグ
・捕手 坂本誠志郎(初)
・一塁手 大山悠輔(初)
・二塁手 中野拓夢(初)
・遊撃手 木浪聖也(初)
・外野手 近本光司(3回目)

(敬称略)

3年連続となる近本光司外野手以外は、今季からセカンド転向の中野拓夢内野手を含め全て初受賞。18年ぶりにリーグ優勝を果たした猛虎勢だが、捕手〜二遊間〜中堅を結ぶ野手のセンターラインで獲得する理想的なカタチとなり、今季の堅守ぶりを象徴する受賞となった。

11日(土) 第3クールに入った高知県安芸市の秋季キャンプに一軍から岡田監督やコーチ陣・若手ナインが日本一のペナントと共に合流。地元の歓迎セレモニーに始まって、県内外から約2,000人のファンが詰めかける祝賀ムードの中で練習が展開された。

日本シリーズから十分喜びに浸る間もない内のキャンプ参加に、指揮官はまだ来季への構想が固まり切っていない現状だが、この時期選手に求める事は、①故障に注意してアピールし過ぎない 、② 投手は高め直球に特化してスピンの効いた強い球を投げ込む、③ 野手は打球にスピンをかける為トレーニングで手首(リスト)を鍛える、と非常に明確だ。

全体的にリストを使えていない若虎たちの中で指揮官が目を見張ったのは、育成・野口恭佑外野手の力強い打球だった。インパクトの一点に集中して手首を柔らかく返しながらフリー打撃でサク越えを連発する姿に思わず見入る。自身は大学時代に習得したというリストワークを多くの打者に身につけさせたい気持ちが、後ろ姿から滲み出ているようだった。

森下豪快!侍1号

12日(日)宮崎市清武町のSOKKENスタジアムで行われた広島との練習試合に日本代表として佐藤輝明内野手・森下翔太外野手がスタメン出場。3番レフトの森下は、左中間芝生席奥へ豪快に打ち込むソロ本塁打など2安打2打点の活躍を見せた。

徳島市内のホテルで、ドラフト2位 椎葉剛投手(徳島インディゴソックス)が今ドラフト組初の仮契約を締結した。

大阪府堺市出身の21歳。長崎・島原中央高時代は3年春まで捕手を務めた。社会人・ミキハウスでの3年を経て今季は四国アイランド・リーグでプレー。中継ぎとして徳島の完全優勝に貢献した最速159km/h右腕だ。同じく独立リーグ出身でWBC優勝メンバーとなった 湯浅京己投手のような活躍が期待される。

交渉には担当の渡辺亮スカウトも同席。自らの故郷で見出した剛腕を来季からファーム投手コーチとして更に磨く立場となる。単発ではなく真の黄金時代を築く為のピースが着々と揃いつつある。

安芸秋季キャンプでは、初日は全体を見渡すようにしていた岡田監督が動き出した。メイン球場で小野寺に異例の約1時間に及ぶ打撃指南を行えば、その後坂を下ってサブグラウンドへ。サード特守を行う渡邉諒に身振り手振りで30分弱の熱血指導を施した。年内は歓喜の余韻に浸りたい思いが強い指揮官だが、若虎たちの必死な姿を目の当たりにすると黙ってはいられない。厳しく長い戦いの向こうには、また新たなステージが待っているのだ。